「PCV-RX53よ、動いてくれ」
　主人の呼びかけに、彼女は沈黙したままだ。

　発声機能はとうの昔に失われている。
　それ以前に、彼女はもう起き上がることすらできない。

　「頼む、あと一回でいい」
　主人の指が、必死でメインスイッチを押す。

　７年半前、最新型とはいかないまでも、それなりのスペックを持っていた彼女も、今や時代遅れの旧型でしかなかった。
　ろくなメンテナンスもされず、それでも彼女は主人のためにほぼ毎日働いてきた。

　「もはや、これまでか……」
　主人は彼女の体に命を吹き込んでいたさまざまなケーブル類を取り外し、ブルーグレイの小柄な体を抱え上げた。
　ああ、私は捨てられるんだ。
　PCV-RX53は、薄れゆく意識の中でそれを悟った。

　最後に視界に入ったのは、箱の中から取り出される、黒く、一回り大きな同類の姿だった。
　


　というわけでついにパソコンが、画像やブックマークやフォトショやシェードもろもろを抱えたままお亡くなりになった。バックアップを取るためにＤＶＤを買ってきたのに、実はＤＶＤは読み取りしかできなかったため失敗し、ＣＤを買ってきた日の出来事だった。
　ちょうど今日、注文していた新しいパソコンが届き、なんとかネット接続までは終えた。